経営承継円滑化法
◆ 「経営承継円滑化法」の概要
<中小企業の親族内事業承継時の問題>
日本経済を支えている中小企業の多くが事業承継の問題をかかえています。たとえ後継者がいても、相続人間での調整がうまくいかなかったり、相続税等の資金の問題が生じたりと多くの問題をかかえています。現状の問題点として以下の点が挙げられます。
1. 遺留分の問題
事業承継者以外の相続人からの遺留分の減殺請求によって事業の継続が危ぶまれるという問題です。相続財産の大半が事業用財産である場合等は、遺留分の減殺請求に応じるために事業用財産を手放したり、相当の金銭的負担を強いられ、事業の継続の支障となっていました。
※ 遺留分とは
2. 資金の問題
事業承継に伴い、事業用財産や自社株式の取得費用、相続税の納税などの資金を必要とする場合が多く、また、経営者の交代による信用力の低下から資金調達が困難になるという問題があります。
3.自社株式にかかる相続税の問題
自社株式の相続税評価額が高額になる場合、多額の相続税の納税資金が必要となるという問題です。
このような状況を受け、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が成立しました。
なお、あわせて平成21年度税制改正において事業承継税制の改正も行われました。
◆「経営継承円滑化法」のポイント
(1)遺留分減殺請求権についての民法の特例
・生前贈与株式等を遺留分算定基礎財産から除外できる制度の創設により、自社株式等に係る遺留分減殺請求を未然に防止し、事業継続に不可欠な財産の分散を回避できます。
・生前贈与株式の評価額をあらかじめ固定できる制度の創設により、後継者の経営努力によって上昇した株式価値は、遺留分算定時に減殺されないため、後継者の経営意欲の阻害要因を排除できます。
◆遺留分とは 民法が法定相続人のうち兄弟姉妹以外の相続人に保証している、遺言によっても害することのできない一定割合の相続財産の事。相続人が直系尊属だけの場合は法定相続分の1/3、それ以外の場合は法定相続分の1/2が遺留分権利の割合となります。 ◆遺留分減殺請求権とは 相続人に保証されている遺留分が侵害されている場合、被相続人から遺贈された人や、生前贈与された人に対し、侵害された遺留分の返還を請求できる権利です。
(2)金融支援措置
相続によって分散した株式・事業用資産の買取資金や納税資金の調達方法として、信用保証協会の保証枠別枠設定や、政府系金融機関による融資制度が整備されます。
(3)「取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度」の創設
(平成21年度税制改正で実施)
中小企業の後継者が相続または遺贈により取得した自社株式について、その80%に対応する相続税の納税を猶予する制度の創設により、円滑な事業承継を実現します。
後継者は、最低5年間、代表者として80%以上の雇用を維持したまま事業を継続し、その後も自社株式を保有し続ければ、最終的に納税が免除される事となります。
事業承継要件が達成されなければ、納税猶予額に利子税を加えて即時全額納付する必要があることから、相続税の延納措置とも捉える事ができます。
以下、それぞれの項目についてみていきます。
(1) 遺留分減殺請求権についての民法の特例
①生前贈与株式等を遺留分算定基礎財産から除外できる制度の創設(除外合意)
事業承継においては、先代経営者の保有する株式等の事業用資産を、後継者に円滑に承継する事が重要となります。しかし、生前贈与や遺言を活用しても遺留分の制約が存在する事で株式や事業用資産を後継者に集中する事ができず、事業継続の障害となるケースもありました。
そこで、先代経営者の生前に、経済産業大臣の確認を受けた後継者が、遺留分権利者全員との合意内容について家庭裁判所の許可を受ける事で、先代経営者から後継者へ生前贈与された自社株式その他一定の財産について、遺留分算定の基礎財産から除外できる制度が創設されます。
これにより自社株式等に係る遺留分減殺請求を未然に防止でき、事業継続に不可欠な財産の分散を回避する事ができます。また、後継者が単独で家庭裁判所に申し立てる為、現行の遺留分放棄制度と比べ、非相続者の手続きは簡素化されます。
②生前贈与株式の評価額を予め固定できる制度の創設(固定合意)
遺留分算定の基礎財産には、生前に贈与された財産も合算され、特に子供や配偶者への贈与については原則として何年前のものであっても合算の対象となります。しかし、合算される贈与財産の評価時点は贈与時ではなく相続開始時となるため、後継者に生前贈与された株式の価値が後継者の貢献によって上昇した場合でも、価値が上昇した分も遺留分減殺請求の対象となってしまう為、後継者の経営意欲の阻害要因となります。
そこで、経済産業大臣の確認を受けた後継者が、遺留分権利者全員との合意内容について家庭裁判所の許可を受ける事で、遺留分の算定に際して、生前贈与株式の価額を合意時の評価額で予め固定できる制度が創設されます。
これにより、自社株式の生前贈与後に企業の業績向上によって自社株式の評価が上昇した場合でも、相続発生時の遺留分の算定については、後継者の貢献によって上昇した株式価値は減殺されない為、経営意欲の阻害要因を排除できます。
(2) 金融支援措置
中小企業の事業承継時には、分散した株式・事業用資産の買取り資金や、相続税納税資金など、多額の資金需要が発生します。また、経営者の交代によって信用状態が悪化し、金融機関の借入条件や取引先の支払条件が厳しくなる事も予想されます。
そこで、経営者の死亡等に伴い必要となる資金の調達を支援する為、経済産業大臣の認定を受けた中小企業者及びその代表者に対して、金融支援の特例が設けられる予定となっています。
①中小企業信用保険法の特例
株式・事業用資産の買取り資金や一定期間の運転資金など、事業継続に必要な資金の借入を円滑に行えるように、信用保証協会の債務保証制度があります。この中小企業信用保険制度においては保険の種別ごとに保険限度額が定められています。経営承継円滑化法による特例は、この保険限度額を拡大するものです。経済産業大臣の認定を受けた一定の中小企業について、普通保証、無担保保証、特別小口保証の別枠を設けます。
②株式会社日本政策金融公庫法及び沖縄振興開発金融公庫法の特例
認定を受けた中小企業の代表者個人に対し、その中小企業の事業活動の継続に必要な資金の貸付を可能とします。具体的には、株式・事業用資産等の買取資金や、相続税支払資金、遺留分減殺請求への対応資金等の資金調達を支援します。
(3)「取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度」の創設(平成21年度税制改正で実施予定)
経営承継円滑化法の施行を受け、事業承継時の障害の一つである後継者の株式に関する相続税負担の問題を抜本的に解決する為に、「取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度」が創設されます。これは、事業経営者に相続が発生し、事業の後継者となる相続人が当該会社の株式を相続した場合に、一定の要件を満たせば、その株式に係る相続税額の納税猶予を認める制度です。
取引相場のない株式等に係る相続税の軽減措置について、現行の10%評価減方式から80%納税猶予方式に大幅に拡充されるとともに、対象が中小企業全般に拡大されます。
なお、本制度は平成21年度の税制改正において創設されますが、経営承継円滑化法が施行される平成20年10月1日以降の相続に遡って適用される予定です。
①改正案の概要
【自社株に係る10%減額措置(現行制度)】<対象会社要件>発行済株式総額20億円未満の会社<軽減対象の上限>相続した株式のうち、発行済株式総数の2/3または評価額10億円までの部分のいずれか低い額↓軽減割合を80%に大幅拡充↓【自社株に係る80%納税猶予(新制度)】<対象会社要件>中小企業基本法上の中小企業とし、株式総額要件は撤廃されます。<軽減対象の上限>軽減対象となる株式の限度額は撤廃されます。ただし、発行済議決権株式総数の2/3以下の限度があります。
③対象となる被相続人
・会社の代表者であったこと
・被相続人と同族関係者で発行済株式総数の50%超の株式を保有、
かつ同族内で筆頭株主であったこと④対象となる事業承継相続人
・会社の代表者であること
・相続人と同族関係者で発行済株式総数の50%超の株式を保有、
かつ同族内で筆頭株主となること⑤納税猶予・納税免除を受ける為の要件
[1]事業継続要件
相続税額の納税猶予を受けた中小企業の経営者は、相続税の法定申告期限(相続の開始があった事を知った日の翌日から10ヶ月)から5年間は、その会社の代表者として経営を行い、80%以上の雇用を継続させなければなりません。
したがって、相続税の法定申告期限から5年間に、「代表者でなくなる」「80%以上の雇用を継続できなかった」「相続した対象株式の一部でも譲渡した」など、事業継続要件から外れ、経済産業省から事業を継続していないと認められた場合には、その時点で納税猶予額に猶予期間の利子税も加えて即時全額納付しなければなりません。
なお、5年間の事業継続状況の確認は、経済産業大臣所管において行う見込みです。
[2]株式保有要件
相続税の法定申告期限から5年経過以後に納税猶予対象の株式を譲渡した場合には、譲渡割合に応じて、納税猶予額に猶予期間の利子税も加えて即時全額納付しなければなりません。
つまり、事業承継相続人は原則として死亡時まで納税猶予の対象株式を保有していないと、遡って相続税と利子税が課税される事となります。
[3]担保
納税猶予の対象となった株式等の全てを担保に供する必要があります。
[4]納税免除
事業承継相続人が死亡時まで継続保有した場合など、一定の要件を満たした場合に、納税猶予から納税免除になります。
[5]適用除外会社
会社形態を利用した租税回避行為を防止する為、個人資産の管理目的会社などは、本制度の適用除外となる予定です。⑥相続税の課税方式の変更
現行の相続税課税方法である「法定相続分課税方式」のまま「取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度」を導入した場合は、相続税総額が減額される事によって、事業承継相続人以外の相続人の税負担も軽減される事となります。新しい事業承継税制の制度化に合わせ、相続税の課税方式を「遺産取得課税方式」へ抜本的に改正する事も検討されています。【法定相続分課税方式(現行制度)】
各人の課税価格を合計した相続財産総額を基に、
一旦、法定相続分で全体の相続税を算出した後、
その相続税を各相続人の実際の取得分で按分計算します。
↓
【遺産取得課税方式(新制度)】
個々の相続人が相続した遺産に直接課税されます。
遺産分割の仕方によって、全体の相続税負担に差異が生じます。(※平成20年度税制改正の大綱によると、
平成21年度税制改正での実施を検討するとされています。)


